2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標「SDGs」。 17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓い、発展途上国のみならず、先進国自身が 取り組む普遍的なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる。今回の巻頭特集では、九州名士による「九州創生と SDGs」 をテーマにした対談、SDGs に取り組むトップランナー企業の取り組みを紹介し、SDGs のいまを伝える。
持続させたい九州の「魅力」と「心」─
次世代につなぐためのSDGsとは
MEMBER PROFILE
1944年生まれ、大阪府出身。久留米大学名誉教授。久留米市を流れる筑後川流域づくりに関心をもち、文化経済学・地域経済学・観光学などを研究。著書に『九州独立と日本の創生-楽しいサスティナブルな社会』。
1942年生まれ、福岡県出身。株式会社関家具社長。関家具は、福岡県大川市に本社を置く、日本一の家具卸会社。関社長が25歳で創業し、それから54年間、一度も赤字なしという驚きの業績で成長を続けている。
1942年生まれ、福岡県出身。クレアプランニング株式会社会長。空間プロデュース事業で、商業施設や公共施設の内装設計・施工において実績と優れた技術を有する。子どもたちの自然体験に根ざした地域振興にも取り組む。
1945年生まれ、東京都出身。九州旅客鉄道株式会社特別顧問。1969年、日本国有鉄道に入社し、分割民営化に伴い1987年にJR九州へ。2002年に社長就任、2009年に会長、2014年に相談役、2022年から特別顧問。
1940年生まれ、福岡県出身。株式会社はせがわ相談役。はせがわは、仏壇、仏具、墓石を主力とした宗教用具業界最大手。2008年に会長に就任後は、対外活動に軸足を移し、2014年6月から相談役。
1952年生まれ、富山県出身。若林ビジネスサポート代表、内閣府地域活性化伝道師、絶景九州プロジェクト代表。1975年、テレビ東京に入社。ワールドビジネスサテライトを企画、初代ニュースキャスターを担当。
若林 今回の対談のテーマは「九州創生とSDGs」ですが、皆さんが持続させたいと思う九州の魅力は何でしょう。
石原 一極集中している東京と比較して九州に何があるのかと考えると、まず、経済的にも勢いのある福岡があって、豊かな自然があるということ。しかし、東京でも郊外に出れば、豊かな自然があり交通の便もいい。では何が違うかといえば、生活コストが低いということが魅力ではないでしょうか。そして、私が感じるのは人の魅力で、九州には人を受け入れる雰囲気があります。そのほか、東京などと比べても太古から続く歴史があり、食や温泉など、あげればキリがないほどの魅力があると思います。
駄田井 我々の暮らす近代社会では、経済が社会を飛び越えて、第一優先になっていますが、九州には社会の中に経済を取り込む伝統が残っていることも魅力だと思います。そして、伝統を残すという基本の中に祭りがあり、地域コミュニティが維持されている要因になっています。そういった意味でもたくさんの伝統的な祭りが残っている九州は健全であり、これからも残していくべきものだと思います。
長谷川 九州には世界中から見て、憧れられる要素がたくさん残っています。未開であるともいえますが、間違った開発が進むより、手をつけていないところが多いことが結果的に良かったのではないでしょうか。そのおかげで歴史上、その土地に伝わってきた物語や大切にする生き方など、地域ごとの歴史や文化が残っているのが魅力だと思います。私は見えないものによって未来がつくられると思うので、そういうものを大事にしていきたい。
中田 私は大学生のころに東京にいて、九州に戻ると「やっぱり九州はよかね」と思いました。九州に住んでいると当たり前になってしまって、ありがたみがわからないのですが、九州の人たちの人間性や人柄のよさ、自然の恵をどれほど受けてきたかということを気付くきっかけになりました。だからこそ、水害などの経験も含めて、九州の中で大事にしていきたいものを次世代に伝えていくことが九州創生につながると感じています。
関 今、東京にいる人たちのなかで地方に移住したいという人が増え、地方が見直される時期が来ていて、九州創生の機運が高まっていると思います。一方で、地方のリーダーがその地域に対する自信と誇りを持って、地域を活性化しようという情熱が足りないのではないかということが気になっています。
若林 祭りの例が出ましたが、先人がつくってくれたものを、今度は私たちが残していかなければならないし、持続していかなければならない。そこが危機的だと思う気持ちが世界中に溢れていて、今、SDGsという取り組みに表れているのだと思います。
長谷川 祭りには、先祖に対する敬いと感謝があります。この思いが何か恩返しをさせていただきたくなるという気持ちにつながります。これは循環していくもので、この基本的な仕組みを守っていくためにも祭りを残さなければいけませんね。我々の先祖がどれだけの情熱を持って、郷土を守り、郷土を愛し、築き上げてきたかを伝えることになります。
石原 祭りというのは、みんなで力を合わせないとできないもので、コミュニティがしっかりしていないとできません。九州にはたくさんの大きな祭りが残っていて、何百年も続いているのは、それだけ各地域のまとまりがしっかりしているということだと思います。祭りは、日本人の心であり、経済の活性化にもなりますね。
中田 今から10年ほど前、息子(クレアプランニング社長の中田泰平氏)がJCの仲間たちと福岡で「中州ジャズ」という祭りを始めました。昔からの祭りもいいけれど、若者が集まって始めた祭りが、最初は期待されていなくても今では定着して、人がたくさん集まるようになりました。新しいものが生まれてくるきっかけづくりも大切で、若い人たちが新しいことをやって、次につながっていくようなことができればいい。こういった取り組みを「そんなこと」と笑うのではなく、「やってみるか」と我々世代も積極的に協力しなければいけませんね。
地域ごとに残っている歴史や文化など、見えないものによって未来がつくられる。我々の先祖がどれだけの情熱を持って、郷土を守り、郷土を愛し、築き上げてきたかを伝えていきたい
新しいものが生まれてくるきっかけづくりも大切で、若い人たちが新しいことをやって、次につながっていくような取り組みに、我々世代も積極的に協力しなければいけませんね
若林 仕事の中で、SDGSと関連がある事柄があればお聞かせください。
中田 弊社では木製品や建築をやっていて、木に関することは何でもつくりますので、工場では木くずがたくさん出ます。しかし、5年前からそれらは一切燃やしていません。集塵機に集めた小さな木くずを牛の寝床として利用してもらっているからです。きっかけは「この木くずをどうにかできないか」と言葉に出したことで、それを聞いた人たちが知恵を出してくれたから実現できました。おかげさまで端材処分のための焼却場も撤去することができました。こういった取り組みは、みんなで考えるという習慣やそれができるコミュニティがあることが大事なのだと実感しました。
関 関家具でも工場で端材がたくさん出るので、今、社内で「何とかこれを製品化しよう」「もう捨てるものをなくそう」と頑張っております。また、SDGsについて私が直感的に思う重要なことは、地域の企業の永続性です。日本には200年以上続く企業が1340社あるといわれていて、その数は世界の中で日本がトップです。老舗企業が多いということも日本の伝統文化の根本であり、地域文化を担う一番の原点だと思います。ですから老舗といわれるような企業を地域からたくさん出していくことも九州の担い手、次の時代への承継につながると思っています。それには企業の後継者を育てることが絶対の条件で、九州の担い手となる人材の育成につながる重要な取り組みだと考えています。
石原 JR九州のCO2削減の取り組みの一例として、車両の電気消費を少なくしていることが挙げられます。車両を軽くしたり、エネルギー効率を上げたり、ブレーキをかける時に発電して電線に戻したりということができるようになって、国鉄のころの車両と比べると電気の消費量が半分ほどの車両もあります。また、以前はディーゼルの車両が走っていたところで、バッテリーを搭載した電車を走らせるなど、トータルでエネルギーの節約や炭素排出量の削減に取り組んでいます。他に、空調、水、紙の節約など、さまざまな工夫を続けています。SDGsの実行には経済活動との調和が必要です。今こそ人類の叡智が求められています。
駄田井 SDGsとは、社会に対してよいビジョンを抱き、それを実践することによって結果として実現できるものじゃないかと思っています。そのためには、これからは成長社会ではなく、成熟社会に向かっていくべきだと思っています。経済の成長とは、人間でいえば体力をつけるということで、それはもう十分かもしれない。一方で成熟する時には社会的、文化的、精神的なものが充実していかなければなりません。経済の成長や人口増加がなくても発展する社会、あるいは生活の幸福度を上げていくことができる成熟した社会の結果としてSDGsの実現があるのではないでしょうか。
長谷川 九州創生を考えれば、世界中の人が九州の一体何に憧れるのか、例えば、30年後の世界中の人たちが何を求めていて、何を誇りにするか、その価値観を予測する。そして、今の九州の状況について、インフラはどうなのか、災害に対してはどうなのか、人々の暮らしはどうなのか、あるいは何百年も前から伝えられた文化はどうなのか、ということを総括して、その中で持続させるべきものを取捨選択していかなけばならないと思います。私は観光や経済、文化など、いろいろな分野において九州が日本のリーダーになり得ると考えていて、SDGsへの取り組みはそれをバックアップしてくれるものだと考えています。
SDGsにおいて重要だと思うのは地域の企業の永続性。老舗企業は地域文化を担う存在だからこそ、老舗といわれる企業が地域にたくさんあることが次の時代への承継につながる
SDGsは人類生存の原則であるが、実行には経済との調和が必要。今こそ我々の叡智と努力が求められる
社会は成長ではなく成熟に向かっていくべき。経済成長や人口増加がなくても進歩する社会、生活の幸福度をあげていく成熟した社会でSDGsが実現される
若林 SDGsでは、何をどのように残し、持続させていくかということと同時に、次世代につなぐために必要な人材、つまりこれからの九州の担い手をどう育てていくかということが重要なポイントですね。
長谷川 そのために最も大切なのは教育であり、教育こそが地方自治だと思っています。世の中のお役に立ちたいという思いはいつの時代も変わらないと思いますが、自分の郷土を愛するといった学校教育がほとんどなされていない現状があります。教育の中心にあるべきものは精神文化であり、先人を敬い、人のために汗を流す、という本来の日本人の姿を取り戻すことが必要です。それには今の若い人が憧れるようなよいお手本が必要で、私たち世代が後ろ姿で示すしかないのかもしれませんね。
駄田井 大学の教員として教育現場に携わってきましたが、日本の教育機関は技術的なことや知識は教えられますが、根本的な志や魂といったことには関わっていません。大事なのは技術だけではなく、志をどう持つかで、これからの人材育成の中で、特に若い人たちに志を持ってもらうことが大事だと思っています。そして、その地域の歴史や文化、暮らしのあり方や地域活性化について、次世代の担い手が自分のこととして考えられるような地方分権を確立することも必要ですね。
石原 シビックプライドを持てないと地方の問題は解決していきません。地域の人に地域をより良い場所にするために、自分自身が関わっているという当事者意識や自負心を持ってほしい。そして、「このまちを何とかしたい」と思っている地域の人たちをまとめるリーダーも必要です。主体性を持って仕事をすることができる環境を経営者がつくることが重要なのと同じですね。
関 私の経営の心の第一は「楽しくなければ、仕事じゃない」です。そうすることで社員からさまざまなアイデアが出て、会社の成長につながっています。リーダーの育て方として私が思うのは、「任せる」ということ。信じて任せれば、人は育ちますし、目を輝かせて仕事をしてくれます。上からああしろ、こうしろと言っていたら、今の会社の業績はありません。これが後継者を含めた人材教育だと私は思っています。また、私自身が経営者として、会社のリーダーとして心がけているのは、社員とのコミュニケーションです。毎日、LINEを使って社員全員に向けて私の思いを伝え、共有しています。
中田 身近なところで、会社を息子に継いでもらった経験からですが、私が伝えたのは、リーダーには人がついてきてくれないといけないということです。どんなに頑張っても一人ではできません。周りが協力してくれるように、また尊敬もされるように、自分の背中を見せていかなければなりません。そして、夢を語らなければ先はないし、楽しくない。人を集めて、おもてなしをして、おせっかいもしてとやっていれば、人が集まります。人が集まる仕掛けをつくって、泥臭くてもいいから、本気でやろうと、心の部分を伝えていくことが大事だと思います。それは会社の経営でも九州創生やSDGsの取り組みでも同じだと思います。
対談場所となった福岡市中央区の「大濠テラス」前で記念撮影。大濠テラスは、クレアプランニング㈱が手がけた大濠公園の緑と池の景観を眺められる施設。八女茶を中心に日本文化に触れることをコンセプトにしている。
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